低体重でふらついて。でもお医者さんに行こうとしない美菜
美菜は小学6年生で、身長150cm 体重28kg。これは同じ身長の女子の体重からするとかなり少ない体重です。だから見た目はがりがりにやせていますが,本人はそれを認めようとはしません。身長150cmの子どもの標準体重の20%減である33kgを、さらに5kgも下回っています。こんな低体重がもう3ヶ月も続いていますが、母親の心配をよそに美菜はいっこうにお医者さんに行こうとはしませんでした。
食事は自分で決めたものしか食べません。わかめ、しらず干し、きゅうり、ヨーグルトなどカロリーの低い物ばかり。「美菜ちゃん、もっと栄養のあるものを食べないとダメよ。ほらお魚はどう?栄養あるよ」とすすめても、「もうおなかいっぱい」とか「あとで食べる」とか言って絶対に食べようとしません。
そんなある日、学校の担任の先生から電話がかかってきました。「美菜ちゃん、体育の時間にふらついて保健室で休んでいました。かなりやせておられるようなので、一度お医者さんに診てもらってください」というものでした。お母さんは「とうとう心配してたことが現実になってきたわ」と、胸がキューとしめつけられそうになりました。「美菜ちゃん、いつも診てもらっている小児科の先生のとこへ行こうか」と言いましたが、美菜はガンとして聞き入れようとはしませんでした。
体を動かすのが大好きな活発な女の子だった美菜
美菜は幼稚園のころからバレエを習っていて、体を動かすのが大好きな女の子でした。体型はまったく普通でやせてもいず太ってもいず。その頃の明るく活発な美菜の様子に、まさか六年後こんな心配をしなくてはならないとは、お母さんは夢にも思っていなかったことでしょう。
フィラデルフィア、ペンシルバニア州で耳鳴りの治療。
今から二年前、小学四年生のころですが、少しぽっちゃりしたことがありました。バレエの先生から「美菜ちゃん、ジャンプもう少し高く飛べない?舞台ばえがしないわよ」と言われたことがありました。どうやらそれから美菜は体型や体重を気にしだしたのかダイエットをしだしやせ始めました。
その思いに拍車がかかりだしたのは、小学五年生の秋ごろから。クリスマスの発表会でライバルの真紀に主役を奪われてからです。「来年の発表会は私が主役に…体重を減らしてもっとスマートにならなくては」と、思ったようです。それ以来美菜の体重はますます減ってきました。がりがりにやせているのに食事のあと「バレエのおさらいするの」と言ってはリビングで踊っていたそうです。
それから半年たちました。現在まだ美菜のダイエットは続いており体重は減少の一途をたどっています。「こんな低体重で学校やバレーのレッスンに通っていては、いつかどこかで倒れてしまうんじゃないかしら」と心配でたまらない母親は、一人でかかりつけの小児科へ相談に行きました。そこで「その低い体重では入院しなくてはいけませんよ」と言われたそうです。その話を美菜にしたところ入院を恐れてか、「私、ぜったいにお医者さんに行くのはいやだ」と言い張っているそうです。
どうしていいか途方にくれたお母さんは、学校の養護の先生の紹介で淀屋橋心理療法センターに来所しました。
「食べると太るからいや」と、言ってたべることを拒否
話を聞いたカウンセラーは、すぐに美菜の拒食症をうたがいました。拒食症の診断基準にはいくつかありますが、それにあてはまるか確認のため質問を続けました。
息ケース看護の息切れ
「体重はどれくらいでしょうか?」
「さあ、あのやせようでは30kgないと思いますが、正確にはわかりません」
「今の体重は3ヶ月以上続いていますか?」
「はい、もっと長くなると思います」
「もっとやせたいという思いは強くありますか?」
「それはもう。やせているのにまだやせていないと、と思っているようです」
「体のどこかが悪いといった症状はありませんか?胃や腸とか」
「それはありません」
母親の答えを聞いてカウンセラーは美菜に体の異常がなければ、拒食症にちがいないと確信しました。「お母さん、拒食症は体重がとても大切なポイントになります。美菜さんは体重を計っていますか?」「はい、毎日計っています。でも教えてくれないんです。ちょっとでも顔をのぞかせるとパッと体重計から降りてしまって」。母親もむりやりに聞き出そうとはしていません。ちょっとでもさわると壊れそうなわが子がこれ以上自分に心を閉ざしてしまうといけないと、腫れものにさわるような対応しかできなくなっているようです。
低体重の対応について、精神科医の所長に相談し適切なアドバイスをもらう
それから一週間後、次のカウンセリングに美菜も来所しました。話しにくいことがあるといけないと美菜だけの個別面接にしたところ、「お母さんには言わないでね。私、28kgなんです」と言って、自分の体重をカウンセラーには打ち明けてくれました。
"臨床不安尺度"
「危険とされる体重を5kgも下まわっている。このままカウンセリングを続けて、命の危険にさらされないだろうか。しかし美菜は小児科に行くことをかたくなに拒んでいるというし。どうしたらいいものか」と、カウンセラーは真剣に迷いました。美菜に今以上にしっかり食べるよう強く言うと、カウンセリングも来なくなる恐れもあります。どう判断していいか困ったカウンセラーは、精神科医である所長に相談しました。
所長は事情を聞いて次のようなアドバイスを出しました。「発表会に出たいという意欲があるのだから、それをうまく生かしたらどうだろう。美菜ちゃんに『もう2kg体重を増やせないかな。そしたらクリスマスの発表会まで大丈夫だから』と言って、具体的な努力目標を設定してあげるんだ。自発的に体重を安定させようと取り組めるように持っていったらどうだろう」。「なるほど、2kgならなんとか頑張ろうと思えるかも」と、カウンセラーは思いました。所長はさらに言葉を続けました。「しかし早い段階で小児科にかかってもらうことははずせないな。わかった。こちらで紹介状を用意しておこう」。
美菜が体重を2kg増やすことにしぶしぶ同意
美菜だけの個別面接で所長のアドバイスを伝えたところ、しばらく考えこんでいました。自分でも体重がかなり減ってきているし、最近体育の時間にふらついたりして「やばい」と感じていたこともあり、拒否にはでませんでした。「2kg、うーん、2kg増やせばレッスンしてもいいのね。ほんとね」と、しぶしぶながらこの提案を受け入れました。カウンセラーはホッとしました。5kg増やさないと、と言っていれば拒否されたかもしれません。拒食症の美菜の「太りたくない、やせていたい」という強い気持ちは、なかなか消えないことを所長もカウンセラーも十分わかっています。そこで「2kg増やす」という所長の判断が、美菜の「それなら増やそう」という気持ちを引き出したようです。
その後母親にも面接室に入ってもらい、美菜が体重を増やすことに同意したことを伝えました。母親は「信じられません。あんなにいやがっていたのに」と、驚いたようようすでした。カウンセラーは「しばらくこれで切り抜けながら、折を見て一度小児科医でチェックを受けましょう。所長が紹介状を書くと言っています。美菜さんの体を守るため、クリスマスの発表会に安心して出られるために、だいじなことですから」と、付け加えることも忘れませんでした。
体重が増えるのはなかなか難しいが、減る傾向は止まった
次のカウンセリングでその後の美菜の様子が母親から報告されました。「美菜はあれからずーと体重を増やそうと頑張っています。お料理もカロリー計算しながら、体重も毎日はかって。『〇g増えたよ。クリスマスの発表会出られるね』と言いながら、自分から進んで2kg増やすことに取り組んでいるようです。じっさいにはそれほど増えていないようですが、確実に減る傾向は止まりました。それだけでも私たち親はどんなにホッとしていることか。ありがとうございました。これからもカウンセリングでのご指導をよろしくお願いいたします」。
このケースはスタートして1ヶ月たった頃のお話しです。美菜の問題は、拒食症においてほとんどのケースで直面する体重と医師の受診をいやがる問題です。今回は無事に切り抜けられましたが、これは一時的な対策で根本的な治療はこれからです。
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