2004/01/26
18日の日曜日、全国のマクドナルドはいつもより多い客でにぎわった。日本マクドナルドが打ち出した、無料引換券一〇〇〇万枚を配布する「マック・ハンバーガーデー」のキャンペーン効果だ。この日は「通常の日曜に比べ二六%アップの売上げ」(広報)を記録したという。
日本マクドナルドがこうした無料引き換えキャンペーンを行うのは初めてのこと。オーストラリア産牛の使用をアピールし、「ハンバーガーの安全性とおいしさを再認識してもらいたい」と、BSE(牛海綿状脳症)騒動をバネにしてPRに売って出た。
二〇〇一年の国内のBSE発生時と異なり、消費者の風評被害は少ない。昨年12月の既存� ��売上げは一・六%増と三ヵ月連続の増収、BSEによる売上げへの影響は小さいという。
一方、様相を大きく変えているのが牛丼チェーンだ。吉野家には見慣れぬ「カレー丼」の垂れ幕がかかり始めた。2月には米国産牛肉の在庫が底をつき、吉野家のほとんどの店頭から牛丼が消える。
かつて安売り競争を仕掛け、デフレの寵児といわれた両者に、BSEは異なるてん末をつきつけた。明暗を分けた理由は両者の危機管理意識の差だ。
グローバル企業のマクドナルドは、英国のBSEの洗礼を受けている。当時の英国ではハンバーガーに牛の脳を混入することが許されていたため、BSEとの関連性を疑われて売上げが激減した。このときマクドナルドは、牛肉の調達ルートの変更を行い、ナゲットやポークリブ� �いった牛肉以外のメニューの多様化、カフェやサンドイッチなどハンバーガー以外の業態の多角化を進めた。日本のマクドナルドもメニュー構成でみると、牛肉への依存率は三割足らずに過ぎない。
またマクドナルドには有名な「グローバル・パーチェシング」という全世界からの食材調達システムがある。これが日本で五九円という激安バーガーを可能にしたわけだが、世界中から同一品質の食材を手当てできるこのシステムは、リスクを分散する究極の危機管理対策でもある。ミートパテはオーストラリア、ニュージーランド、米国のどの国からも調達可能だ。またイスラム、インドなど宗教色の強い国のために開発した植物性タンパクのパテもある。
日本ではポテトを揚げる油に牛脂を使っていたが、今回すばやくそ� ��を植物油に切り替えできたのも、すでにこうした代替品をいつでも使えるからだ。食材から調理システムまで、一から開発しようと思えば一年以上はかかるだろう。
そして、まさにその対極にあるのが吉野家だ。単品メニューで合理化を図り、利益率を高めるという政策が裏目に出た。安部社長にしてみれば、リスクを承知の上で、トップブランドを死守するための賭けだったに違いない。ほかの牛丼チェーンが、国内でBSEが発症した時から牛肉以外のメニューに力を入れてきたのに対し、「うちは定食屋じゃない」と突っぱねてきた。米国以外の調達ルートの開拓も実質行ってはいなかった。
牛丼がなくなった後は代替メニューでしのぐというが、吉野家の厨房には、牛丼用の鍋と湯煎器だけしかなく、競合の松屋が 本格的なグリドル、大型電子レンジ二台などを備えているのに対して、メニューの幅も味にも限界がある。
安部社長は「牛丼がなくなっても、資金は潤沢にあり、経営の不安はない」と豪語するが、弱体化した吉野家がこのままでいられるはずがない。松屋やすき家にとっては、吉野家との差を縮める千載一遇のチャンスだ。
米国産牛肉の輸入は今月末現在、日本政府は米国の安全対策が不十分として、全頭検査と同等の対応を求める方針は変えておらず、再開のめどは立っていない。エグゼクティブトレードの関係者によると、仮に禁輸が解けても、以前のような二八〇円の牛丼を出せる見込みは低く、牛丼業界の地図が塗り変わる可能性がある。
また、吉野家を買収し傘下におさめようと虎視眈々と狙ってきた食� ��メーカーや商社が動き出す。これまで吉野家は高い収益性、高効率化で、安部社長の強いリーダーシップの下、ほかの企業に介入する隙を見せなかった。しかし今後は、安部社長の責任を問う声も出るなど会社の弱体化は否めない。
株価が下がったら買収のチャンス。皆それを狙ってくるはずだ。筆頭株主の西洋フードシステムズと大株主の伊藤忠グループの動き、誰が吉野家を買収にかかるかが今後の焦点になるだろう。
[特集]始まった回復、見えない戦略 マクドナルドは甦(よみがえ)るか
2004/01/17
外食の雄、マクドナルドの危機は日本だけではない。本国アメリカでも創業来初の赤字を出し、一時は世界的危機的状況を呈した。
昨年、いち早く回復を遂げたのは米国マクドナルドだった。余勢を駆っ� �、日本へ役員陣を派遣、米国式戦術の導入を迫る。
出店戦略と価格戦略のもつれに疲弊し、創業者・藤田田氏まで失った今の日本マクドナルドには多分、米国式でも何式でも一定の効果は上がるだろう。しかし、その先の戦略――いちばん必要なそれが、見えてこない。
どん底まで落ちた米国マックの「回復」
いち早く既存店売上高が回復した米国。「原点回帰政策」はとりあえず及第点だが、課題は山積みだ。
「傾いた船を立て直せ」
ちょうど1年前、米国マクドナルドの会長兼CEOに就任したジム・カンタルポ氏が全世界の従業員に発したメッセージには、悲壮な危機感がみなぎっていた。
カンタルポ会長の前任であるジャック・グリーンバーグ氏は財務畑出身。世界的に大量出店を続ける一方 で、単一ブランドでの成長に限界を感じ業態多角化を進めてきた。現場からのたたき上げがトップに就くのが慣例だったマクドナルドでは、同氏は異色の存在だった。マクドナルドがグローバル企業として成長していくうえで必要な人事だと思われたが、結果としてグリーンバーグ政権下で、現場の競争力は衰退した。
そこで第一線の立て直しをすべく、2001年に副会長兼社長を最後に退任していたカンタルポ氏が、急きょ呼び戻されたのだ。
マクドナルドは119カ国に3万1000もの店舗を持ち、毎日4700万食を提供している。シンボルである「ゴールデンアーチ」ともども、全世界で最も知られたブランドの一つといっていいだろう。
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